医療機器を開発するうえで試作品のクオリティは、その後の製品寿命を左右するほど重要です。
私はこれまで医療機器の開発部門と品質管理部門の両方に携わり、さらに女性エンジニアとして多様な視点を持ってプロトタイピングの課題に向き合ってきました。
本記事では、医療機器の試作開発が果たす役割から、効率的なプロトタイピング手法、そして品質管理の視点を含めた全体像までを包括的に解説します。
医療機器の試作段階では、単に「完成品のイメージを作る」だけではなく、安全性や規制対応、さらには実際の医療現場での使いやすさまで検証する必要があります。
これを早期に行うことで後戻りを最小限にし、開発効率を向上させるのが目的です。
特に女性エンジニアならではのきめ細かな視点は、使い勝手や細部の完成度を高める上で大きな強みになると感じています。
ここでは、私がこれまで医療機器の試作や品質管理、そしてユーザビリティの評価などに携わってきた中で培った知見を共有します。
読者の皆さんが、自身の開発プロジェクトでより効果的なプロトタイピングを実現できるようになることを願っています。
医療機器試作開発の基礎
効率的なプロトタイピングが求められる理由
医療機器は、人命や身体機能の維持に直接かかわる重要な製品です。
そのため、万一のトラブルは大きなリスクにつながる可能性があります。
試作段階で十分に検証を行い、製品の安全性や性能を確かめることが最も重要と言っても過言ではありません。
さらに、医療機器の競争が激化する中で、短期間での市場投入が求められています。
試作段階を迅速かつ正確に行うことで、以下のようなメリットを得られます。
- 製品コンセプトの早期確立と開発リソースの最適化
- 設計のミスや不要な機能の削減
- ユーザビリティや安全性に関する改善点の迅速なフィードバック
こうしたメリットを最大化するためには、プロトタイピングの手法やチーム体制を見直すことが不可欠です。
規制要件と品質管理の基本的な押さえどころ
医療機器は各国の規制要件に合致している必要があります。
たとえば日本であれば薬機法、海外ではFDA(米国)やCEマーキング(EU)などが代表的な例です。
品質管理においては、以下のような点を早い段階から押さえることが重要です。
- ISO 13485などの規格要件: 設計から製造、出荷、アフターサービスに至るまでの一貫した管理体制の構築
- リスクマネジメント: ISO 14971に基づくリスク評価と対策
- ドキュメンテーション: 設計プロセスや試験結果などを規格に沿って適切に記録
品質管理部門に在籍していたころ、設計段階から品質要件を無理なく組み込む仕組みづくりがいかに大切かを痛感しました。
試作段階で規制要件に即した検証を行えるよう、設計者と品質管理者が積極的に連携することが望ましいでしょう。
プロトタイプ段階で把握しておくべき医療現場のニーズ
医療機器の開発では、医療現場で実際に使われるシーンを想定することが欠かせません。
プロトタイプの段階から医師や看護師、臨床検査技師などのユーザーが抱えるニーズをきちんと拾い上げることが、最終的な製品の完成度を大きく左右します。
- 患者の負担や安全性
- 医療従事者の操作性と作業効率
- 設置場所の制約やシステム連携の難易度
こうした現場ニーズを反映させるためには、試作機を実際に触ってもらい、フィードバックを受け取る仕組みづくりが重要です。
私自身、ユーザビリティテストの場で医療従事者からいただいた意見を反映した結果、操作パネルの配置や画面のデザインが大幅に改善され、機能誤使用のリスクを低減できた経験があります。
効率的なプロトタイピング手法の全体像
CAD設計や3Dプリントなどの最新技術活用
近年は、CADソフトウェアによる3D設計や、試作品を短時間で実物化できる3Dプリント技術が格段に進歩しています。
これらを活用すると、設計データから直に試作品を作成できるため、形状確認や操作性の検証を素早く行えます。
「早い段階で“目に見えるもの”を用意できることが、開発効率アップの鍵です。」
私自身、試作モデルを3Dプリントで作成し、医療スタッフに直接触ってもらいながらヒアリングを行うことで、パネルボタンやセンサ配置の微調整を重ねました。
従来であれば金型を起こすのにコストがかかっていた部分が、3Dプリントのおかげで最適化のサイクルを短期間で回せるようになったのは大きなメリットです。
機械設計と電子回路設計の連携ポイント
医療機器の多くは、機械部品だけでなく電子回路やソフトウェアが深く組み込まれています。
プロトタイプを作る段階で、機械設計と電子回路設計が別々に進んでしまうと、部品の配置や放熱対策、あるいは筐体寸法の不一致などが後々大きな問題を引き起こす恐れがあります。
- 共有すべき情報
- 部品サイズ・取り付け位置
- ケーブル配線やコネクタの種類
- 熱設計やEMC対策に関する要件
- 連携のための仕組み
- 定期的な設計レビュー
- 3D-CADとECADのデータ連携
- 共通の設計ルールや手順書の策定
これらを実施しておくことで、試作の段階でも「動作しない」「寸法が合わない」といったトラブルを大幅に減らせます。
初期段階でのユーザビリティ評価の重要性
医療機器に限らず、製品のユーザビリティは早期評価が重要です。
特に医療現場では、誤操作やユーザーの負担が大きなリスクにつながります。
私が経験した例として、試作機の操作画面を実際に看護師さんが使用したところ、「緊急時はボタン一発で操作が完結する必要がある」といった要望があり、メニュー階層を大幅に変更したことがあります。
もし本番設計で操作フローが複雑なままだったら、医療事故を未然に防ぐことが難しくなったかもしれません。
初期段階からユーザビリティテストを組み込み、使用感や操作フローの見直しを行うことで、より安全かつ使いやすい製品に仕上がります。
品質管理と試作の融合
早期の品質管理プロセス導入によるリスク低減
試作だからといって、品質管理を後回しにしてしまうと、量産設計へのスムーズな移行が難しくなります。
早期に品質管理プロセスを導入することで、以下のリスクを低減できます。
- 見落としがちな不具合の再発リスク
- 試作段階での検証漏れから生じる後戻りコスト
- 規制要件を満たせない事態の発生
品質管理部門が持つ「チェックリスト」や「テスト項目」をプロトタイピングに反映し、早い段階で課題を洗い出すことが効果的です。
設計審査とドキュメンテーションの最適化
設計審査(Design Review)は、医療機器開発の各フェーズで必須となるプロセスです。
試作フェーズでも、設計審査を形式的に済ませるのではなく、実質的なリスク評価の場として活用しましょう。
- 試作時点の成果物を関係者でレビュー
- 不具合やリスク要因を洗い出し、即座にフィードバック
- レビュー内容をドキュメント化し、次の段階に生かす
ドキュメンテーションのコツとしては、「必要十分な情報を、必要な人にすぐ渡せる形でまとめる」ことです。
私が管理部門でやっていたころは、文書化しすぎて現場が追いつかなくなることもあったので、求められる品質とスピードのバランスを調整するのがポイントになります。
規制対応の観点から見た試作開発のチェックポイント
規制対応は後回しにすると重大なトラブルを引き起こします。
試作開発の段階で、以下のようなポイントをチェックしておくとスムーズです。
チェックポイント | 内容 |
---|---|
リスクアセスメント | ISO 14971に基づくリスク分析、対策の検討 |
テスト計画・試験項目の定義 | 試作品の機能試験、環境試験、信頼性試験など |
トレーサビリティの確保 | 要求仕様からテスト結果までの一貫した管理 |
ユーザビリティエンジニアリング | 実使用環境での評価、文書化(ISO 62366など) |
これらを早めに把握することで、量産移行や承認申請に必要なデータを効率的に揃えられます。
チーム連携とマネジメントの実践
クロスファンクショナルチームでの情報共有と課題解決
試作開発は、設計、品質管理、製造、マーケティングなど複数部門の連携が必要です。
クロスファンクショナルチームを編成して情報共有を綿密に行い、課題を早めに洗い出すことが開発スピードを左右します。
- 定期的な進捗ミーティングとタスクの可視化
- 各部門の専門知識を活かしたアイデアの抽出
- 適切なコミュニケーションツールの選定(オンライン共有システムなど)
私が携わったプロジェクトでは、品質管理からのリスク情報を設計部門へ即座にフィードバックし、そこから生まれたアイデアを再度品質管理が評価するといった“循環”を意識した体制が功を奏しました。
マネジメント視点で見るプロトタイピングの進め方
プロジェクトマネージャーとしては、試作の進捗と品質を両立させることが課題です。
以下のような観点を押さえておくと、スムーズなマネジメントが可能となります。
- ゴール設定: 試作で何を検証し、どこまで仕上げるのかを明確にする。
- リソース管理: 試作に必要な人員・材料・予算の配分を最適化。
- スケジュールの柔軟性: 不確定要素が多い試作では、適度なバッファを設ける。
- 意思決定のスピード: 小さな変更は迅速に実施し、課題解決に時間をかけすぎない。
短納期を求められる現場では、ともすれば“とにかく早く動かす”ことが優先されがちです。
しかし、見えないリスクに対応するためにも、品質管理や規制要件を常に踏まえた意思決定が欠かせません。
若手エンジニアへの指導と育成を通じた開発効率の向上
私自身、開発と品質管理の両部門を経験してきた立場から、若手エンジニアの育成が長期的な開発効率につながると感じています。
特に試作フェーズでの実装やテストは、多くの学びを得られる現場です。
- ペアプログラミングやメンタリングによる学習機会の提供
- 失敗を許容し、改善策をチームで共有する文化づくり
- 必要に応じて外部セミナーや資格支援を行い、スキルアップを後押し
若手エンジニアにとって、試作段階の失敗は将来の財産になります。
現場での成功体験と失敗体験を積み重ねることで、次のプロジェクトでより高品質な成果を出せるようになるのです。
ケーススタディ:医療画像診断機器の試作
具体的な成功事例と学んだ教訓
私が以前携わった医療画像診断機器の試作開発では、3Dプリント技術を積極的に導入することで短期間で多くの試作サイクルを回せました。
具体的には、以下のようなアプローチを取りました。
- CAD-3Dプリント-評価の高速サイクルを確立
- 医療スタッフへの聞き取りを複数回実施し、ユーザビリティを逐次改善
- 試作と品質管理チェックを同時並行で進めることで開発期間を短縮
結果として、ユーザビリティの高い筐体デザインと操作パネルを数週間で固めることができ、後の量産設計にスムーズにつなげられました。
特に医師や放射線技師の方々から「操作性が格段によくなった」と評価をもらえたことは大きな収穫でした。
失敗から得られた改善策とクイックフィードバックの重要性
一方で、同じプロジェクトの中で回路基板の放熱設計が不十分だったため、後から基板設計を大幅に修正する必要が生じました。
これにより、試作段階で全体の筐体設計を一度見直さざるを得なくなり、スケジュールにも少なからず影響が出ました。
この失敗から得られた教訓は以下の通りです。
- 機械設計と電子設計の初期連携をさらに強化する
- コンパクト化にこだわりすぎず、放熱対策を優先する
- 試作段階での検証計画に「熱や電磁ノイズのテスト」をしっかり組み込む
クイックフィードバック体制を整えていたことで、結果的には早い段階で問題を認識し、影響を最小限に食い止めることができました。
試作段階のスピード感を大切にしつつも、各専門領域のリスクを見落とさないようにするバランスが重要だと再認識しました。
まとめ
効率的なプロトタイピングは、医療機器開発において製品の質と安全性を高めると同時に、市場投入までの時間を大幅に短縮する可能性を秘めています。
設計・品質管理・ユーザビリティ検証を一貫した視点で捉え、現場ニーズと規制要件を初期フェーズからバランスよく取り込むことが、最終的な成功の鍵となります。
私は開発者としても品質管理者としても、早期検証とフィードバックサイクルの重要性を現場で痛感してきました。
今後、ますます進化するプロトタイピング技術やデジタルツールを活用しつつ、チーム連携を密に行い、若手エンジニアの育成にも力を入れることで、さらに効率的で安全性の高い医療機器を世に送り出すことができるでしょう。
ぜひ本記事で紹介した手法やポイントを、皆さんのプロジェクトでも取り入れてみてください。
そして「必要なときに必要な人に正確な医療」を届けるために、より良い試作開発のあり方を模索し続けましょう。